彼氏がヒミツにする理由
わたしはうわばきを下駄箱にしまって、くつに履きかえた。
そして、ぱっと表情を切りかえる。
「わたしも一緒に待ってようか?」
笑顔を作って、気分はからかい上手の女の子。
「いいから帰れよ」
「そうだよねー。2人で帰りたいもんねー」
「おまえさっきからうざいよ」
「いてっ」
からかったところで春日はそう簡単に動じたりしない。
代わりにデコピンが返ってきた。
暗い気持ちでいたってしかたない。
夏見くんが褒めてくれた笑顔は、もともとわたしのモットーだったものだもん。
「気をつけて帰れよ」
「うん、じゃあね」
春日に手を振って、背を見せる。
開きっぱなしの昇降口のドアの向こうは、陽が落ちて夜を見せはじめていた。
夜に向かって一歩、踏み出したときだった。
「天!」
わたしを呼ぶ声が届いたのは。