彼氏がヒミツにする理由
それは、普段はわたしを下の名前で呼ばない声だった。
ふり返って。
わたしと春日の視線の先、
──夏見くんがいた。
「えっ……夏見くん?」
彼を見て、次の瞬間には目が春日を追っていた。
だって……。
「これから帰るなら、一緒に帰らない?」
夏見くんはさらに信じられないことを口にした。
春日がいるのに。
「え、あっ……うん……」
あ然としたまま無意識に頷いていた。
くつを履きかえた夏見くんに手を取られて、歩き出す。
もう空は見えない。
わたしの視界も意識も、夏見くんが独占する。
その強引な背中にただ従うしかなかった。