彼氏がヒミツにする理由
甘いものがそんなに得意ではないわたしも、この日だけはコンビニに並ぶチョコレートに手を伸ばしてしまう。
今日はバレンタインデー。
放課後、友だちの“すんちゃん”が好きな人にチョコレートを渡すということで、わたしは図書室で1人、彼女からの結果報告を待っていた。
わたしが告白するわけじゃないのに、告白に行く前のすんちゃんのこわばった顔を思い出して、こっちまでドキドキ。
……すんちゃんが図書室に戻ってきませんように。
……好きな人とうまくいって、そのまま帰れますように。
机の上にすんちゃんからもらった友チョコを置き、それに向かって指を絡ませながら祈る。
そのとき、静かな空間に一瞬外の雑音が交じった。
だれかが図書室に入ってきた。
ここは入口から死角になる場所で、人が入ってきたのはわかってもだれが入ってきたかまではわからない。
今は司書さんも生徒もいない。図書当番の相方もいない。わたし1人だけ。
……すんちゃんじゃありませんように。
そう願って、入ってきた人の足音に耳を澄ます。
ペタペタとこっちに向かってくる。
本棚の陰から姿を現したのは……。
「……っ」
すんちゃんじゃなかった。
となりのクラスの男子生徒、夏見くんだった。