弱小流派の陰陽姫【完】
一切傷を負わない陰陽師。
霊体妖異異形の攻撃を一切受け付けず、戦場において怪我をすることすらない、それが神崎流の陰陽師だった。
それは神崎流が継いできた血の影響で、月音もそれを継いでいる。
だがその血の希少性ゆえか、子どもが生まれる確率がかなり低かった。
月音は一人っ子で、父もきょうだいはいない。
父のあとに跡継ぎになる子を月音は対面上『従弟』と呼んでいるが、最近では唯一兄弟がいた曾祖父の弟の系譜だ。
そして曾祖父の弟もその子供も、次が生まれるのが遅く、『従弟』は、代としては月音の父のはとこにあたる。
いつ存続が危うくなるかわからない。そのため、神崎流は弱小流派と呼ばれていた。
月音にも守護の力は備わっていて、妖異や異形は月音に近づくことすらできない。
だから月音の傍にいれば、煌にも害がないということだろう。
「でもどうしようか悩んでるんだよねえ……」
窓枠に背を預けたまま、月音は腕を組む。
廊下と教室を繋ぐ壁をくりぬいた窓の向こうに、こちらとは反対側の窓際に立って何やら考え込んでいる様子の白桜と隣でスマホをいじっている百合緋が見える。
月音、こっそり推し活。
「推し活を?」
はっとする。今は煌に話さねば。
唯一推し活に付き合ってくれる大事な友達だ。
「うん。さっき脳内で組み立てたんだけど、黒藤様と白桜様が並んでも今のところ楽しい推し活出来なさそうだし……バイオレンスは私の趣味じゃないし……」
「じゃあ月御門と水旧の方に何かハプニングでも起きるように画策してみたら? 月音ちゃんの推しが絡んでるとこ見られるかもよ?」
煌の提案に、月音はぐっとこぶしを握って顔をゆがめた。
「くっ……」
「え、何その断腸の思いみたいな顔は」
煌は、月音のささいな異常行動では驚かなくなっている。
「推しが自然に行動してラブラブになったりラブハプニングが起こるのは私の本望だけど、自分の欲望のために行動を起こすのは……! いかんともしがたい……!」
いかんともしがたい、って女子高生が言う言葉かな、と煌は思う。
しかし言葉通りの表情をしている月音。
自分の心に素直な子だなあ、と感心してしまう。
「まあまあ。別に誰かの恋路を邪魔するわけじゃないしさ。つーかあの三人がぶっちゃけお互いをどう思っているかってことは俺も気になるし。一緒にいさせてよ」