弱小流派の陰陽姫【完】
「んー、今まで通り物陰から見つめるだけなら……」
「やっぱり物陰なんだ。話しかけたりしないの?」
「私は壁になりたいんだよ、小田切くん」
真剣な瞳で言われたけど、その言葉の意味が煌には全くわからなかった。頑張って解釈しようとする。
「かべ……? 妖怪になりたいの?」
思い浮かんだのは、妖怪のぬりかべだった。
月音はこぶしを握って力説する。
「そうではないの……! ただただ、推しを見守る存在になりたいの。話しかけるとか烏滸(おこ)がましい……!」
烏滸がましいんだ。
「月音ちゃんってボキャブラリーすごいよね。じゃあ俺も壁になろっと」
煌も月音のノリに乗ったが、ものすごく平坦な目を向けられた。
「………」
「何、その死んだ目は」
「小田切くんも変人の烙印押されるよ?」
「いいよー。月音ちゃんと一緒だと楽しいし」
にこにこーっと、人好きのする煌の笑顔は、変人な自覚のある月音には眩しすぎた。
太陽にするみたいに、煌に向かって手をかざした。
「……月音ちゃん?」
「小田切くん、前世でめっちゃ徳を積んだんだね……私には小田切くんも天上の人だよ。高天原(たかまがはら)の存在だよ。『煌めきの神』とか名乗っていいと思うよ」
真顔で言われたが、内容が普通じゃない。
「いや俺人間だから。勝手に神格化されても怖いよ。まー俺としては月御門とは友達な気でいるし、影小路先輩とも友達になりたいんだよねー」
「陽キャの発想」
「俺の性格それで片付けないで。まったく最近の月音ちゃんは」
煌はわざとらしく腕を組んでため息をつく。
「最近の若者は、みたいな口調で言われても、小田切くんとは高校で知り合ったし私の推し活は初等部からだよ」
「初等部からアレやってたんだ……」
煌が遠い目をしだした。
自分の行動がやばい自覚もある月音はにやっと唇の端をあげる。