弱小流派の陰陽姫【完】
白桜への感情に名前をつけてしまう出来事が――白桜は憶えていないが――幼い頃にあった。
白桜が黒藤を『にいさま』と呼んでいた頃だ。
白桜への感情に名前がつく前は、色々と悩んだ。
でも、ひとたび可愛いと思ったら、色々な気持ちがあとをついてきた。
だから今、何度白桜にぶっ飛ばされても、白桜にまっすぐに伝える。
俺には白が必要だと。だから――勝手にいなくなるな、と。
煌が月音の家を理解しようとすれば、婿入りも難しい話ではない。
婿養子になることは大前提になってしまうが、神崎流は他の陰陽師流派との婚姻はむしろよしとせず、家のことを理解した一般家庭の者との婚姻を結んできた。
希少種ゆえ子が生まれにくいというのもあって、血族婚は避けていて、かといって他の陰陽師流派の血が混ざるのも避けてきていた。
その点煌は、一般的な家庭の子供で、霊感があり霊媒体質というのはあるが、それは幽体妖異を視認できるために神崎の家を理解しやすいとも言える。
下手なことをして月音の父である碧人に睨まれさえしなければ、月音の結婚相手としては花丸だ。
(まあ、本人たちの自覚が一番の難題かな……)
黒藤は、縁とばかり話している月音を見やる。
煌の方は自覚の一歩手前にいるようだが、月音は全くわからない。
煌のことを意識しているような素振りが皆無ではないが、もしかしたら自分は家のために結婚しなければならないという思いにとらわれているかもしれない。
そうなると――煌をどう思っているのか、自覚することすら自分にゆるさないだろう。
(友達として……今できることってなんだろうな……)
黒藤は人生で初めて、そんなことを考えた。