弱小流派の陰陽姫【完】
「え、月御門!?」
「うん? なんで小田切がそこまで驚く?」
「いや――悪い、タイミングがタイミングだったもんで……」
ど、どうする。白桜を前にすると挙動不審しか起こさない月音がいて、そこへ白桜がやってきて……自分詰んでない?
「え、えーと……月御門って月音ちゃんのこと名前で呼んでたっけ?」
とりあえず話題をそらそう。
現に月音は緊張で硬直している。
それとなく月音を連れてここを離れねば。
白桜はにこっと人のいい笑みを浮かべる。
うーん、いつもの月御門だ。月音は脅されたと言っていたが、そんな雰囲気……
「さっき友達になれたから呼んでみた。小田切みたいに呼びたいのもあるけど、一足飛びすぎるかな、って」
「そ……そうなんだ……」
あ、こいつ腹黒だわ、と煌も納得してしまう表情と瞳の光を、白桜に見てしまった。
今まで一度もそんな素振りすら感じなかったけど。
言っていることは丁寧だが、これは性質が悪いタイプだ、と。
黒藤が危ない人扱いされているけど実はめっちゃいい人なのと反対に、清廉なイメージを持たれている白桜が実は……だとは。
月音から聞いた話だと、白桜は歴史ある家の、すでに当主らしい。
……そういうところはきっと、優しいだけでは務まらないだろう。
「えっと……」
次はなんと続けようか。
コミュニケーション能力の高い煌にしては珍しく迷っていると、白桜の眼光が鋭くなった。
「月音さんから聞いたんだけど……小田切も聞いたんだよね? 黒から、俺のこと」
一音一音丁寧に発されて、煌はプレッシャーを感じた。
話し方ひとつでここまで他人を圧倒できるものなのか。
「うっ……ごめん」
「謝らなくていいよ。言えば、俺の祖父の黒への嫌い度があがるだけで、俺は特に思うこともないし」
「そ、そうなん? 黒藤先輩、月御門のおじいさんに嫌われてるんだ……?」
「ああ。俺が本当は……っての、おじい様は絶対に隠し通したいから」
「……もしかして俺たち、月御門のおじいさんに記憶消されたりする?」
「いや? そんなことはしないと思うけど、なんで?」
「月音ちゃんと友達になってから、そういう……陰陽師ものの本とか映画見て、陰陽師って色んなことが出来る人みたいだったから……そういう記憶消したりもできるのかなーって」