弱小流派の陰陽姫【完】
「……へっ? な、なんでですか……?」
月音が素の様子で首を傾げた。
煌も意味がわからず、解答を求めて白桜を見る。
「百合姫、誰かを着飾らせるのが好きなんだ。俺らの周りにはそういうことが出来る友達がいないから、俺の式とか黒のとこの縁とか、見た目女性を見ると着せ替えしまくったり化粧しまくったりしてて。縁が今風の見た目を取るのも、百合姫の影響だよ」
「ゆ、百合緋様の御手で……!? いや、まさか私ごときがそんな存在にはなれませぬ。百合緋様の補佐役などでしたらいくらでもお請けしますが……」
ぼそぼそと月音は言う。
「月音ちゃん、黒藤先輩と話すときもだけど、なんでそんな時代劇みたいな話し方になるの?」
「そういうしゃべり方も教養のうちなんだよ。じいさん連中と話すときとか使えるんだ」
「さすが歴史ある家」
白桜に言われて、また、月音との差を知ってしまった。
落ち込む――まではいかないが、こういうときふっと黒藤の言葉が脳裏によみがえる。
――『碧人に気に入られるように――』。
いやいや、と頭(かぶり)を振る煌。
月音のことは可愛いと思うし、面白いと思うし、一緒にいるとすごく楽しいし、好きか嫌いかで言ったら好きに全振りして嫌いなとこなんてひとつもないけど、付き合っているわけではない。
(そうだよ、別に付き合ってないどころか、俺月音ちゃんの友達なだけだし……。月音ちゃんは推し活で忙しそうだし)
なんなら、黒藤や白桜という異性(白桜は一応)の方が、男扱いされている気がする。
先ほど自分のところへ駆け込んできたときとか、親や兄を頼るような感じだったんじゃないかと思ってしまう。
月音の中での自分の位置が知りたい。
でも問いかけたところで月音なら、『私の推し活に付き合ってくれる神様』とか、勝手に神格化していそうであまり聞きたくない。
そんな扱い普通に怖いわ。
「そういえば月音は、陰陽師名乗ってないよな?」
今まで交流はなかったのだろう白桜は、月音にそう問うた。
月音は「はい」とうなずく。