弱小流派の陰陽姫【完】
月音に祓ってもらったことはあるけど、月音は自分でも名言する通り陰陽師ではないらしく、父から与えられたという護符を幽霊に張り付けて成仏させていた。
それとは違う、本物の陰陽師の力を煌は、初めて目にした。
――黒藤が左腕を高く掲げると、空から黒い烏(からす)が舞い降りてその腕に停まった。
その烏は普通のものより一回り大きく、黒藤の腕で羽をしまった。
「烏、いつから気づいてた?」
『主(あるじ)殿が気づかれるよりは前かの』
(鳥がしゃべった!? ――あ、これが式とかいうやつ……?)
烏がくちばしを開くと、人間の言葉が聞こえた。
白桜の隣にいた月音も黒藤と烏を見て、目を見開いている。
「誰を見ている?」
再び黒藤が烏に問いかける。
『そこな人間よ。小妖(しょうよう)に狙われる程度には、高い』
(俺!?)
烏のくちばしは、煌を示した。
追って煌を見てきた黒藤は鋭い眼差しをしていたが、すぐにいつもの穏やかなものに変わる。
「煌、ちょっと時間もらうわ」
「え――」
なんの時間だとは説明しないまま、黒藤は大きく腕を払った。
その勢いのまま、しゃべる烏は天空へ羽ばたいていってしまった。
「黒、そっちは?」
周囲に視線をやりながら黒藤に呼びかける白桜。
黒藤も、白桜とは反対側を見ている。
「んー、まだ出てこない。でも数はいるなあ。烏の言う通り、煌の霊力狙いかな」
(俺狙い!?)
黒藤のその言葉に驚いてしまう煌。
このびりびりと肌を刺して、腹の底に嫌なものをたまらせていくものたち――あやかしが狙っているのは自分とか、巻き込んでしまったみんなに申し訳なさすぎる。
「こっちもだ。でたらめなほど多いぞ。小妖に狙われるとは……小田切に何かしら持たせた方がいいな」