弱小流派の陰陽姫【完】

月音の近くにいるようになって緩和されたものの、煌自体に変化あったわけではないから、視えるし、月音から離れれば憑かれやすいのは変わらない。

「そうだね。一度体験してみるといい。合わなかったら別の方法を試す機会にもなる」

碧人がうなずいてくれたので、煌の今後の予定がひとつ加わった。

「わー! 小田切くんと滝行行けるー!」

月音が目に見えて、るんたるんたしている。

今にもスキップし始めそうな勢いだ。

しかし言っていることはかなりいかつい。可愛くない。

「月音。言っておくが滝行はデートじゃないからな? 中途半端な気持ちで臨んだら死ぬからな?」

「う、浮かれてません! 気合い入れてるだけですっ」

ふんす、と父に抗議する月音。

碧人は疑り深い目で娘を見ている。

そしてやり取りを見ていた煌、ひとつ思った。

(滝行って結構危ないんだ……。月音ちゃんが興奮のあまり滝に突っ込んでいかないように見てないと)

『月音係』と言われる煌の本領が発揮されていた。

それぞれの家への分かれ道に差し掛かって、煌は足を停めた。

「あの」

月音と碧人を正面に捉えると、煌が深く頭を下げた。

「小田切くん?」

「俺、視える体質だったけど、陰陽師とか全然わからないので、色々と教えてください」

「ああ、もちろん」

「初心者なのは私も一緒だから、一緒にがんばろうね!」

月音に言われて、煌は気持ちが引き締まった。

『一緒に』

そうだ。一緒にがんばるんだ。

これから、色々なことがあるだろう。

まず煌の家族に、許嫁になる承諾をもらわないといけないし、神崎の家に婿養子に入るための勉強も必要かもしれない。

考え込んでいると、ふと手が温かくなった。

自分の手を見やると、自分より一回り小さな手に包み込まれていた。

そのまま顔をあげると、やわらかい表情をした月音と目が合った。

煌の目線を受け止めて、にこっと微笑む。

「大丈夫だよ。小田切くんの守護霊、めっちゃ強いから」

「ありが――守護霊?」

突拍子もない元気づけに、間抜けな声が出た。

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