【短】甘いチョコにとびきりの愛を込めて。
妃野が男の名前を出したから胸がざわついた。
好きな人、いないんじゃなかった?
名前呼びからして、親しい仲だろう。
「ええっ! それは大変! 今から行くから待ってて!」
慌てた様子で必死にうったえる。
緊急なようだ。
……呼び出しか?
「ごめんね。ちょっと急いで帰らなきゃいけない用事ができちゃって……」
申し訳なさそうに手を合わせてお願いする妃野。
呼ばれたなら仕方ない。
本当は引き止めたいけど、妃野のいちばんはその男だろうから。
「わかった。忙しいのに来てくれてありがと」
「ううん。今日はゆっくり休んで、早く元気になってね……!」
小さく手を振った妃野は電話の男のもとへ向かった。
部屋は一気に静まり返り、感じたことのない喪失感に襲われる。
なんだ……これ。胸が苦しい。