私じゃダメだよ
 「わぁ、懐かし〜、、、
  受験があって学校も久しぶりですけど、
  、、、もうここで先生と話すのも最後ですね!」

 気持ちを抑えるために、わざと明るく振る舞う

 「、、、そうだなぁ、
  お!あったあった。この本だよな
  長い間借りてて悪かったな。ほらよ」

 「あ、、、ありがとうございます」

 そうだよ、私は本を取りに来ただけなんだから

 もう何も話すことはないし、帰らなきゃ

 なかなか帰らない私に向ける視線が痛い

 先生の姿を目に焼き付けてから背を向ける

 この扉を開ければもう会えないんだ

 当たり前のことなのに
 
 どうしてこんなに息が苦しいんだろう

 「、、、っ、、、ほんっ、とに、、、っ、、、
  ありがとう、、、ございっ、、、まし、たっ、、、」

 あぁ、ダメだな

 最後までいい生徒でいるって決めたのに

 自分の声じゃないみたいに
 
 言うことを聞いてくれない

 こんなに情けない声が最後なんて恥ずかしくて

 消え入りそうな声なんて届いてないかもしれない

 早くここから出よう

 力の入らない手で扉に手をかける
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