日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
本編の方の映画版は見た。でも、原作マンガを目にしたことはない。
こうして手に取ってしまった以上、開かずにはいられないわけで。何故か折り目が付けられているページを見つけ、そこから読み始める。
いきなり、ベッドシーンかよ……。
ほんの少しぎょっとしながら、読み進める。
『美奈、今日は一体どうしたんだ? いつも受け身の君が、こんなこと――』
『自分でも分からない。でも、あなたを前にすると、勝手に身体が動くのよ』
美奈が恭一に跨がる。
『淫らな私はイヤ? 今日は、私があなたを気持ちよくしたいの』
『美奈……っ』
ん――?
どこかで、見た光景が――。
そこは女性向けの漫画だ。際どい部分は上手くぼかされて描かれてはいない。でも、何をしているかは分かる。
僕は、何かが引っかかりながらさらに読み進める。
『恭一さんは、今日は何もしてはダメよ。全部、私がするから』
そう言って、恭一から引き抜いたネクタイを使って、恭一の手首を縛る
『待ってくれ、美奈――』
お、おい、これって――。
昨晩、華が僕にしたこと、そのまま――?
『私があなたを襲うわ』
身動きの取れない恭一の服を一つ一つ脱がせ、素肌に舌を滑らせて。
次第に、それは恭一の身体の中心へと移って行く――。
何が、『桐谷さんにいつもしてもらっていることをしているだけ』だ。
『ああ、美奈。そんなことしたら、たまらなくなる』
『もっとしてほしい?』
『ああ、たまらないよ。もっと、してくれ。もっと――』
『嬉しい。私があなたをそんなに乱れさせているのかと思ったら、嬉しくてたまらない』
『ああ、君は最高だ。明るいうちは、控えめで貞淑な女なのに、夜になったらそんなにも淫らになって。僕はもう、君に骨抜きにされてる。溺れても溺れても果てがない。君から離れられなくなる。身も心も――』
華は、この展開を期待していたのか――。
それであんな台詞。
こういうことをすれば、もっと僕を夢中にさせられると思ったのか……?
ソファにもたれて、手のひらで口元を押さえる。それでも、どうしてもにやけてしまう表情を抑えられない。
ご丁寧に折り目まで付けて。
僕が出張中にこれを読んで、いろいろと考えてくれていたのかな。
そんな華の姿を想像すれば、たまならく可愛くて。
どうして君は、斜め上のことをして僕を喜ばせるの――。
顔を手のひらで覆う。
可愛い。可愛くてたまらない。
あの写真だって。どれもこれも、僕がいない間、僕を想ってくれていたことには違いなくて。それがどんな手段だろうと方法だろうと、もう構わない。
今度は、ベッドの上で、華の思うように最後までさせてやろう――。
そんなことを思って、また一人笑ってしまう。
僕は完全にイカレている。
華、僕は、もう君という底のない沼から出られない。出たいとも思わない。一生、君に溺れているよ。