日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
last episode あなた色に染められて
桐谷さんが定時で帰ることができる、そんな奇跡のような日なのに。
どうして、私に残業させんだよ――っ!!
と荒れ狂う怒りをなんとか抑えながら、急遽頼まれた資料を超高速で仕上げる。
「これで、どうですか? 問題ないですよねっ?」
帰り際に仕事を依頼して来た、KY会計士に鼻息荒く提出する。
「あ、ああ……うん。ありがとう。問題、ないです」
私の圧に少し気圧されたかのうように苦笑して、私を見上げた。
「では、もう失礼してもよろしいでしょうか」
「はい。お疲れ様」
「お先に失礼します!」
ぶんっと頭を下げ自分の席に戻り、鞄をひったくるとオフィスを出た。
桐谷さん――!
今朝まで、あんなに濃密な時間を過ごしたと言うのに、もうこんなにも桐谷さんに会いたいなんて。
出勤する40分前まで、身体を離してくれなくて。
もう……午前中なんて、身体に残る余韻を意識しないように仕事をするのがどれだけ大変だったか。
ちらりちらりと視界に入るお仕事モード桐谷さんが、また私を困らせて。
『そこの記述、正確性が足りませんよ。相手方の間違いを指摘する部分ですから、より神経を使って慎重にならないと』
『すみません、すぐに直します』
『常に法律に立ち返って。法規集、確認してださい』
ああ……。たまらない。
あんなに淡々とクールに仕事している姿と、つい数時間前までの私を求める姿。
両方を見てしまうと、妄想婆としては、頭の中が煩悩でいっぱいになってしまう。
桐谷さん。今度はギャップ萌えで、私を悶え死させるつもりですか――!
デスクの上で一人悶える。
――そんなわけで、仕事をしているクール桐谷を見てしまえば、余計にあの人を独り占めしたくなるという終わりのないループをぐるぐるしてしまうわけで。
とにかく、早く、会いたい。二人だけになりたい。
そうです。私は、桐谷中毒です。