日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
時が経つのは早いもので、気付けば季節も晩秋、11月が終わろうとしている。
8月の終わりに華に「結婚しようと」と告げてから一緒に暮らし始めるまでに、思いのほか時間がかかってしまった。
当初は、僕が住んでいたマンションに越して来ればいいと考えていたが、華の荷物があまりに多くて断念せざるを得なかった。
その荷物の大半が、彼女の趣味関係のものだということは、とりあえず目を瞑る。
二人で住むのにいい物件を探したが、これが僕的に納得のいく部屋が見つからなくて。
その上、これでもかと仕事が降りかかって来て、連日午前様状態。
結局、二人で生活を始めたのは2週間ほど前だ。
それに、一週間前に式を挙げたばかりとあって、二人で暮らし始めたと言ってもバタバタとして落ち着かなかった。
式を終えて、ようやく日常が戻った感がある。仕事も、なんとか厄介な案件が一つ片付きそうだ。
頼むから、そろそろ新婚生活を実感させてほしい。
……もう、このままでは埒があかない。
仕事なんてやろうと思えばいくらでも湧いて来る。無理やりにでも終わらせることがたまには必要だ。
「――悪いけど、今日はもう帰ります」
「あ……、桐谷さん、お疲れ様でした」
部下に一声かけて、鞄を手にした。
「新婚なのに変わらず毎日遅くて、小暮さん……あ、いや奥さん、寂しいでしょうね。ああ、でも、桐谷さんが激務なのは見ていれば分かるし、大丈夫か。こういう時、社内で共働きの結婚っていいですね。理解してもらえそうで」
自分の仕事の手を止めて、部下が笑顔でそんなことを言う。
「……まあ、それはそうかもしれないけど。理解してくれてるからいいという問題でもないでしょう。僕自身が、彼女との時間がほしてくたまらないんだからね」
「あ……そうなんですね。じゃあ、早く帰らないと、ですね」
何か不思議なものでも見たような目で僕を見て、ぎこちない笑みを浮かべている。
「お先に」
早くって、もう21時を過ぎているよ――。
心の中でそう愚痴りながら、足早にオフィスを後にする。