日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
「来栖さんは君のことを、部下としてだけじゃなく何か特別な意味を込めて見ていると思う。だから、少し警戒して――」
「何を言ってるんですか? 来栖さんが私をそんな目で見るわけないじゃないですか。私は来栖さんのチームのアシスタントだし、仕事の接点があるだけで。それに、来栖さんはああいう性格の人だから。優しい言葉を掛けたり笑顔を向けて来るのは、私だけじゃないです。他の人にも同じですよ」
どうして、そんな風に言い切れるんだ――。
「そんなことにまで気を回さないで。いくら私が頼りないからって、そんな心配までするなんて、おかしいです」
「おかしい……?」
華が、何故かその表情を歪める。
「私ですよ? どうして私がそんな対象に? どう考えても、おかしいでしょう」
僕は、おかしいのか――?
僕が穴が開くんじゃないかってくらいに華を見つめたから、華がハッとしたようにまた笑顔になった。
「桐谷さん、深く考え過ぎですよ。来栖さんも桐谷さんに負けないくらいモテるんです。セントラルの王子ランキング一位は来栖さんですからね。そんな人が、どうして私なんかに。そんな奇跡みたいなことは、二度も起きるはずがないじゃないですか」
「華……」
どうしてだろう。どうしようもなく切なくなる。切なくなって胸が締め付けられて、その自分より小さな身体を胸に抱き寄せた。
「最近、自分が怖くなるよ」
「桐谷さん……」
華への想いが、日ごとに大きくなる。華と真正面から向き合うようになってから、すぐに結婚を決めたからか。一緒に暮らし始めても、結婚しても、焦がれてしまう。
確かに僕はおかしいのかもしれない。二人の生活に浮かれ過ぎて、浮かれを通り越しておかしくなったか。
華は僕の妻なのに。恋しくてたまらないのだ。僕の初めての本当の意味での恋愛は、これから始まるのかもしれない。
僕は、君に落ちて行く。この先どこまでも、深く深く、落ちて行く。