日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
あんなにも恋い焦がれ、無謀とも言える告白に当然のごとく玉砕し、その後も何度あしらわれても諦めきれなかった桐谷さんの妻となった。
まさに、奇跡。
生まれてからかれこれ28年、はっきり言って、思い出として取り出せるような出来事なんてまるでなかった。
そんな私の人生において、燦然と輝く幸福な出来事。
これまで誰にも見向きもされたなかった私が、たった一人、大好きな人にだけ振り向いてもらえた。
これ以上、何が欲しいと言う?
いや、何も欲しいものなんてない。
これ以上、何を望む?
まさか。これ以上何も望むものなんてない。
桐谷さんが私と一緒にいてくれる。その事実だけで、どれだけ嬉しいだろう。
桐谷さんが私を抱きしめてくれる。その腕があるだけで、他のどんな困難だって受け入れられる――。
私は、そう思っていた。
でも、私は何も分かっていなかったのだ。職場内で誰もが知る有名人と結婚するということが、どういうことか。交際を秘密にしている時には分かりようもなかったのだ。
”あの桐谷さん”の相手が、小暮華だと公にされた瞬間から、セントラルでの私の置かれた状況が一変した。