日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。


 オフィスのある大手町から地下鉄で20分ほどの場所に新居がある。2LDKの賃貸マンションだ。

その20分ですら、もどかしい。

 式の前の一週間も式の後の一週間も、結局、帰宅時間は日付けが変わるか変わらないかの頃で。この日初めて、まともな時間に帰るのだ。

 同じ職場で働き、同じベッドに寝ていても、全然足りない。

同じ職場だと言っても、顔が見えるだけ。
同じベッドに寝ていると言っても、ただ隣で寝ているだけ。

余計にこちらのフラストレーションは溜まるばかりだ。

この地下鉄、速度制限でもしているのか。もっと、速度を上げろよ。

一番前の車両の、運転席とを隔てる壁に寄りかかり、意味もなくちらりと覗き込む。

【今日は早く出られた。これから帰る】

そう華にメッセージを送り、スマホをしまう。

早く、話がしたい。
早く、表面だけじゃない、深くまで触れたい。


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