日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。



「――ただいま、華」
「――」

返事がない。

部屋は明るいし、華の靴もある。部屋にいるはずだけど……。

不思議に思いながら、廊下を歩く。

 そして、リビングダイニングへと足を踏み入れ、まだまだ生活感のない部屋を見回した。華の姿はなかった。

 一緒に暮らし始めてから昨日まで、どれだけ帰宅が深夜に及んでも華は必ず起きて待っていた。『寝ていていい』といくら言っても『分かりました』と言いながら玄関に出迎えに来ていたのだ。

風呂にでも入っているのか……。

そう思って、入り口に背を向けて置いているソファへと近付き、腰掛けようとした時だった。

「華……?」

ソファに上半身だけを横たえて、目を閉じている。

寝ていたのか――。

慎重にソファの空いているスペースに腰掛ける。

 もう、夜の9時半を過ぎている。華は、定時過ぎには職場を出ていた。それなのに、服は仕事に着て行っていたタイトスカートとブラウスを着たままで、その上にエプロンをして。

玄関を開けたらすぐにでもがっつきそうになっていた衝動が、ゆるやかに落ち着いて来る。

早く帰って来た日に限って、寝てるとか。狙ってやっているのなら、君は相当の魔性だな――。

そう思って、ふっと笑ってしまう。

まあ、そんなこと狙って出来る性格じゃないから、確実に天然の魔性だけど……。

僕は僕で、その天然の魔性に翻弄されているけどね。

頬に掛かる黒髪を、起こさないようにそっとかき上げる。


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