日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。


「私は……っ!」

涙が込み上げる。これまでずっと溜めて来た涙が溢れ出して、止まらなくなる。開いた胸元をぎゅっと握りしめる。

「桐谷さんを裏切ったりなんかしない。縛られたりなんかしなくたって、心はもう桐谷さんのところにしかない。
来栖さんとはただ話をしていただけです。私が桐谷さん以外の人と、何をするっていうんですか。そんなこと、あるはずないのに。
なのに、こんなの、酷いです!」

扉を開けて、部屋を飛び出した。

 こんな姿のまま席には戻れない。目に入った近くのトイレに逃げ込み、必死になって顔を洗う。刺すような冷たさの水を何度も顔に浴びせれば、嫌でも冷静になる。

さっきの、桐谷さんの怒っているのに苦しそうな顔――。

私と来栖さんが……だなんて誤解されたのが哀しかった。

 でも、そう思わせてしまった原因が私にもあるのだとしたら。桐谷さんはきっと、私を軽蔑してしまう。そう考えただけで、震えてしまうほどに怖い

 桐谷さんの私への信頼と愛情を本当に失ってしまったら、私は耐えられない。

『華、好きだよ――』

あんな風に、もう見つめてもらえなくなるくらいなら。何もかも全部、伝えるべきだ。必死に取り繕って来た気持ちを全部。
 それが、ただ、桐谷さんを失いたくない気持ちからだったこと。ずっと、怯えていたこと。苦しかったこと。

 桐谷さんにあんな顔をさせるくらいなら、無様な自分を曝け出してもいい。

桐谷さんが忙しいから。
桐谷さんの負担になりたくないから――。

そう言って、逃げていただけなのかもしれない。

 私は私でしかないのに。本当の自分でしか、本当には向き合えない。ありのままの自分でしか、桐谷さんと、本当の意味で向き合うことなんてできないんだ。


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