日ごと、君におちて行く。日ごと、あなたに染められる。
一人取り残された薄暗い資料室で、力なく座り込み、たくさんの蔵書が並べられた本棚にもたれる。
身体が鉛のように重く感じて、腕を投げ出す。
確かに、疲れていた。
でも、これくらい忙しいことは、これまでにもあった。
今回は自分が思っている以上に、無理をしていたかもしれない。
とにかく、一刻でも早く、業務を落ち着かせたくて。体力的にも精神的にも、ぎりぎりのところで仕事をしていた。
日に日に遠く感じて行く華と、早く二人の時間を持たなければと焦っていた。精神的に余裕がなくなっていた。
だからと言って、あんな……。
つい数十秒前に自分がしたことを思うと、自分をぶん殴りたくなる。
華が、本気で怯えていた。本気で、嫌がっていた――。
最低だ。力づくで、押さえ込もうなんて。
あんなことしたって、余計に心が離れて行くだけなのに。
来栖と華が、お互いに見つめ合っているのを見たら、頭に血が上って。心にあった不安と焦り、華を失うかもしれないという恐怖で、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
今よりずっと若かった、大学生の頃。若菜が他の男と寝ていると知っても、その男の元へ行くと告げられても、こんな風に取り乱したりはしなかった。怒りと虚しさは、自分の心の中だけに抑え込むことが出来た。
その人の気持ちが離れて行くことが、こんなに怖いものだとは知らなかった。
愛しくてたまらない存在が他の男に触れられたと想像するだけで、僕だけが知るはずの腕の中で見せる顔を、他の男にも見せているかもしれないと想像するだけで、気が狂いそうになる。
『私は、どんなイケメンが現れようと、甘い言葉しか吐かない優しい男が現れようと、石油王が現れようと、アメリカの不動産王が現れようと、桐谷さんだけを愛します!』
そんな言葉を、華は大真面目に言った。
『桐谷さんが、好きです』
僕だって――。
君以外の女は全部同じに見えるくらい、僕には華しか見えないのに。