③わたしの執事はときどき俺様
「おい。まさかとは思うけど、授業ほっぽり出して逃げだしたりとかバカなことはすんなよ、菫様」
「ぎゃあ」
出て行ったはずの俊くんが、突然扉から顔を出した。
「ちょっ……いきなり出てきたら、びっくりするじゃない!」
心臓が飛び出るかと思ったよ。
ていうかなんで分かったの!?
「ん? 扉の近くまで来てるってことはまさかお前……」
ギクッ!!
「違うから。おっ、お手洗いに行こうと思っただけだから」
「ふーん、それなら良いけど。もし、逃げたりしたらどうなるか……分かってるよな?」
脅しのようなことを言い残し、今度こそ俊くんが部屋を出ていくのとほぼ同時に、着物姿の茶道の先生が和室に入ってきた。
「あら、小鳥遊さん。一番にお部屋に来られているなんて、やる気があっていいですね」
「そっ、そうですか?!」
先生に返事しながら、わたしは畳の上に腰をおろす。
そうだ。もしここで嫌だからって逃げたりしたらわたし……子どもの頃と何も変わらないことになるんじゃない?
それどころか、一生懸命特訓してくれた俊くんを裏切ることにもなる。
それだけは……絶対にしたらダメだ。
わたしは、拳をきゅっと握りしめる。
さっき俊くんと特訓したんだから、きっと大丈夫だよ。
一度自分を信じて頑張ってみようと、このときわたしは初めて思った。