③わたしの執事はときどき俺様
「ええい。やだやだじゃないわい。これはもう決定事項じゃ。お前に拒否権はない!」
「そんなぁ……おじい様、どうしてもダメですか?」
わたしは上目遣いでおじい様を見つめ、小首を傾げてみせる。
「菫。何だ、それは。そのような目でワシを見てもダメじゃぞ」
くぅ……これでいつもパパとママは、わたしの言うとおりにしてくれるのに。
まさか、おじい様には通用しないなんて。
わたしは頬を膨らませる。
「まったく、小鳥遊グループの令嬢だというのに。礼儀作法のひとつも身につかんと。義人も凛子さんも菫を甘やかしすぎじゃわ」
おじい様が、盛大なため息をつく。
ちなみに、義人と凛子というのはわたしのパパとママの名前。
「菫には言ってなかったが、小鳥遊グループの令嬢は、昔から櫻乃学園に通うというルールがある。ちなみに、嫁の凛子さんも櫻乃学園の出身なんじゃぞ」
……だからだよ。ママから櫻乃学園の話を聞いていたから、わたしは行きたくないのよ。
「菫。ワシは菫に小鳥遊グループの令嬢として、礼儀やマナーの身についた立派な女性になって欲しいんじゃよ。これも全部、お前のためなんじゃ」
おじい様が、わたしに深々と頭を下げる。
「これは老いぼれじいさんの、一生に一度のお願いじゃ。頼む」
こんなおじい様を見るのは初めてで。
一生に一度のお願いとか言われたら……
根負けしたわたしはしぶしぶ、首を縦にふったのだった。