⑥姫は成瀬くんに守られたい✩.*˚
 その日の夜、寮の端にある空き部屋に根本を呼び出した。ここなら誰にも話を聞かれることはない。

 部屋は明かりもつけずに薄暗いまま。

「成瀬、俺、何もしてないのに背負い投げとかひどいよー」

 そう、俺は事件の時、二條たちを眺めている根本にイラッとして、逃げる直前に背負い投げをしてしまった。

「何もしてない? 今日の誘拐、考えたのお前だろ?」

「バレてた?」

 根本はあっさりと事実を認めた。
 
「どうしてあんな事した?」
「誰にも期待されてなさそうなお前なんかには分からないんだろうな……」

 突然根本の話し方が冷ややかになる。

「騎士に選ばれないと、家での立場も危ういんだ。完璧な兄貴と何もかも比べられて、もし今回騎士になれないと、親にも見捨てられる……」

「だからって、守る立場の姫を危険な目に合わせて……」

「本当に危険な目に合わせるつもりはなかったよ。俺も誘拐されそうになるふりして、そして犯人たちを倒すふりして沙良ちゃんを助けて……」


「ふりって……。実際、二條、本気であの時怖がってたぞ」

「その方が助けた時、俺のこと好きになる確率高そうじゃん。俺が沙良ちゃんと逃げる予定だったのになぁ」

 根本の話が理解出来なかった。
 こんなにずるいやり方で、守るべき姫を怖がらせて……。

 俺なら絶対にこんなことしない。

「あ、そうそう、これ見て?」

 根本がスマホの動画を見せてきた。
 俺が根本を背負い投げした瞬間の映像だった。

「誰かに告げ口したら、抵抗してない俺に暴力ふったこと、学園にばらすから。そしたら、停学? いや、退学になっちゃうかもね」

 更に脅迫までしてきた。

 退学になっても別にいい。適当な気持ちで入った学園だし。でも……。

 ふと二條の顔が頭をよぎる。

 このままだと、優柔不断そうな二條は、根本にうまくまるめこまれて、根本を騎士に選びそうだ。

 この男を騎士に選んでほしくない――。

 関わるのが面倒だけど、二條のことも気になる。根本、まだ何かしそうだし。
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