✩.*˚again~かつて僕も人間に恋をしていた。
 歌を聴いて泣きそうになったけれど、ぐっとこらえた。

 最後の歌を彼が歌い終えた時、突然誰かに手を掴まれた。

 手を引っ張られて、後ろ姿しかみえないけれど、誰なのかすぐに分かった。

「想、さん?」

 名前を呼んだけれど、一切振り向かずにライブステージからどんどん離れていく。

 裏門の木の陰まで来て立ち止まった。
 天宮くんが「来て」って言っていた場所は正門前。

 つまり、真逆の場所。

 彼はヴァンパイアの格好をしていた。
 
「いきなり、どうしたんですか?ってかその格好……」
「あ、これは、コスプレ」

 想さんはまだ私が彼の正体を知っていることを知らない。

 天宮くんが私の衣装のことを『本来のヴァンパイアの姿』って言っていたから、彼のこの姿もコスプレとかじゃなくて、本来の姿なのかもしれない。

 どっちにしても、ヴァンパイアの格好がすごく馴染んでいた。だって彼は本物のヴァンパイアだから。


「一度、真面目に、話がしたい」

 私を真剣に見つめながら彼は、そう言った。

 

 
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