ハーメルンの笛が聴こえるよ…
お店の近くに偶然、公園があったのでそこに移動した。

現在の時刻は午前10時過ぎ。

この時間帯のせいか、人はほとんどいなかった。

老婆が1人だけいて、読書をしていた。

日中なので、楽器を演奏しても問題は無い。

フミはベンチに座り、ショウカはその前に立った。

『ショウカちゃんの演奏、楽しみ。クラリネットだよね?』

『えっ?違うよ?』

そう言ってショウカはリュックの中から、あの笛を取り出した。

『…なに?…なんなのそれ?』

フミは怪訝な顔をして言った。

すると、読書をしていた老婆が近づいてきた。

高校生の演奏を聴きたいようだ。

『おやおや。若いおふたりさん。楽器ができるのかい?あたしにも聴かせてくれるかい?あたしも若いときゃ、楽器やってたんだよ。』

『いいですよ?良かったら聞いてください!ウチ、吹奏楽部なんで任せてください!』

ショウカは自信満々の様子で答えた。

しかし、フミはそれどころではなかった。

フミは友人が手に持つ、【ソレ】に対して、得体の知れない気味悪さを感じていた。

同時に疑問も抱いていた。

【ソレ】は本当に楽器なの?

ショウカは軽く息を吸った。

『フミちゃん!おばあちゃん!そろそろ演奏始めるよ?曲名…とかはないんだけどね。』

ショウカは笛を吹き始めた。

彼女自身は、素敵な音色に身を委ねているつもりだった。

『レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪ レシミラシシミラレ〜♪』

しかし、フミと老婆は同時に言い放った。

『もうやめてよ!』

『もうやめておくれぇ!なんなんだね?この音は?あー、きもち悪い!聴くんじゃなかったよ。まったく!』

怒った老婆は、そのままどこかへ行ってしまった。

ショウカは、自分の演奏がここまで否定されるとは思わなかったので、落ち込んでしまった。

フミは、なぜ彼女が落ち込んでいるのか、理解ができなかった。

少なくとも、吹奏楽部で活動している時のショウカの演奏スキルは高い。

そのことをフミは知っている。

しかしフミは、今聴いたものは音楽と呼べるものでは無いと考えていた。

かろうじて音階はあるけど、とにかく不快なものだった。

『ごめんね。下手くそだったかな…?』

申し訳なさそうにショウカは言った。

その様子が、フミにとっては気味悪く感じた。

とにかく、心配になった。

『下手とかじゃないって!ショウカちゃん、大丈夫?』

『大丈夫って何が?』

『ショウカちゃん、なんかおかしいよ?そもそも、今演奏したのって、楽器なの?なんとなく笛っぽい形はしてるけど…。』

『どう見ても笛じゃんか!でもそっか。難しいな。もっと練習しとくね!』

『しなくていい!そんな楽器、今すぐ捨てて!気持ちわるい!』

『えー。せっかく拾ったのに。』

『拾ったのっ!?』

『うん。良い音色だったから。ウチ、クラリネット辞めて、この笛にしよっかな。』

『…。』

フミは何も言えなかった。

友人がおかしくなってしまったからだ。

ショウカは変わらず、楽しそうに笛を吹いていた。

『レシミラシシミラレ〜♪』
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