ハーメルンの笛が聴こえるよ…
そんなある日のこと。

部活動が終了し、ショウカは1人で帰宅していた。

いつも一緒に行動しているフミは、今日は用事があるということで、学校を早退していた。

帰り道の途中にある川沿いの道を、ショウカは黙々と歩いていた。

すると、彼女は河原に何かが落ちているのを発見した。

【ソレ】は無造作に転がっていた。

ショウカは無意識のうちに、【ソレ】を拾った。

【ソレ】は見たこともない、奇妙な形をした笛だった。

楽器に詳しいショウカですら、一度も見たことがない笛だった。

大半の人は、落とし物を発見しても放っておく。

親切な心を持つ人は、交番に届ける。

普段のショウカも、どちらかの行動を取るタイプの人間だ。

しかし、彼女の思考をある欲望が支配する。

『笛を吹きたい…。』

ショウカはなぜか、手に取った笛を無性に吹きたくなった。

不思議なことに我慢ができない。

限界まで喉が渇いた状態に近かった。

そんな状態で水を渡されたら、誰だって夢中で水を飲むはずだ。

ショウカは辺りを見渡した。

周りには誰も居ない。

彼女はもう冷静では無かった。

もし冷静だったら、道に落ちている物に口をつけるなんてことはありえない。

『ふぅ…。』

ショウカは少し息を吐いた後、笛を演奏し始めた。

演奏家の感性なのか。

そういう風に設計されているのか。

なぜかショウカは、この奇妙な笛を鳴らすことができた。

『レシミラシシミラレ〜♪』

同じメロディーをひたすら吹き続けた。

今まで聞いたこともない、綺麗な音色が鳴り出した。

彼女は、何とも言えない極上の幸福感に包まれていた。

この楽器の音色に心を奪われた。

いつも演奏しているクラリネットでは味わえない、快楽がそこにはあった。

もう彼女に迷いなんて無かった。

ショウカは拾った笛を、通学用のリュックにしまった。
< 4 / 23 >

この作品をシェア

pagetop