すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
静まり返った部屋に、殿下が鼻で笑った音が聞こえた。まるで話にならないといった様子で、眉間にしわを寄せるとまた話を続ける。
「父上の許可? 陛下は今、ご病気だ。遊び暮らすおまえは知らなかったのだろうが、君主が病気の際は王太子である私があらゆることを決定する立場にあるのだ。どうせ陛下はおまえの言い分を信じたのだろうが、その許可証は無効だ」
「そ、そんな……! でもエリックが……!」
「ああ、おまえが容姿で選んだ無能な家庭教師など、耳あたりの良いことしか言わないだろうな」
チラリと視線を向けることすらなく自分への辛辣な意見を殿下に言われ、エリックはカッと顔を赤くした。唇を歪ませ、握った拳がぶるぶると震えている。
アンジェラ王女も子供のようにオロオロとし、それでも私への処刑が正しいのだと駄々っ子のように叫んでいる。
「わ、わたくしは王族として、お兄様の代わりを――!」
「……そんなに王族として責任を負いたいのなら、ちょうど良い話があるぞ」
「えっ……?」
アルフレッド殿下の声色が急に甘く優しさを帯び始め、その変わりように背中に寒気が走った。殿下はアンジェラ王女の肩にそっと手をかけると、優しい微笑みを顔に浮かべている。