すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「隣国から縁談が来ている。王族として国のために嫁げるのだ。素晴らしいことだな」
「え、縁談? どういうことですの? わたくしはカイルと婚約しております!」
一気に顔を青くした王女が、カイルのもとに駆け寄って来ようとした。しかしすぐさまケリーさんがそれを止め、カイルはよりいっそう強い力で私を抱きしめる。
「カイルとの婚約はおまえに甘い陛下が、王命として無理やり決定したものだ。本人は望んでいない」
「そ、そんなことありません! ねえ! カイル! わたくしが他の男と結婚だなんて、そんなことカイルが許さないわよね!」
ケリーさんが抑えているのにもかかわらず、アンジェラ王女は必死の形相でカイルに手を伸ばしている。しかしカイルはその手を取ることもなく、私を自分の胸にぐっと引き寄せた。
「私は一度たりとも、アンジェラ王女との結婚を望んだことはありません。私には心に決めた女性がいます!」
(カイル……)
「まさか、その女だというの? その女は犯罪者で、あなたと会って数日しかたってないのよ! やっぱりそうよ! この女がなにかしたのよ!」
ダンダンと靴音を鳴らし私に飛びかかろうとする妹の姿を見て、殿下は呆れ返っている。
「もう止めないか。王女だというのに権力を使って臣下に婚姻を迫るなど、見苦しいにもほどがある」
「い、嫌です! わたくしは子供の頃からカイルと結婚を――!」