すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(それに私だってそんなの嫌だよ……)
カイルだってこの国の騎士団長だからわかってるのだ。私は苦々しい顔で黙り込む彼の腕に手をかけ、にっこりとほほ笑んだ。
「カイル、私のことを考えてくれてありがとう。でもね殿下の言うことは正しいし、あなただって国民が苦しむところは見たくないでしょう? それに私だってせっかく一年もかけて瘴気を浄化したんだから、自分の記憶と引き換えに台無しにしたくないんだ」
「しかし、それでは……」
「うん。もちろん皆に思い出してもらえないのは悲しいけど、これから新しく思い出を作っていければそれでいいよ!」
(一緒に過ごした過去を共有できないのは淋しいけど、みんなと元気に過ごす未来を大切にしたい……!)
そう言ってカイルの手をぎゅっと握ると、ようやく彼の表情が和らいだ。私の髪を優しく撫で、自分の胸に引き寄せる。
「でも俺はあきらめないからな」
「……ありがとう。いつか思い出してもらえたら嬉しい」
あせらないでいこう。私が聖女で過去に一緒に過ごしたことを知ってもらえただけでもありがたい。そのうえカイルは私への感情が残っているように思える。
(たとえ思い出してもらえなくても、また積み上げていけばいい)
みんなが見ているのはわかっているけど、私はカイルの気持ちに応えるように彼の背中に手を回した。