すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「……カイル。ただいま」
目の前にいたのが俺だったから、ただそれだけの理由かもしれない。それでもサクラの第一声が俺の名前だったことに、全身が震えるほど幸せだった。
彼女の頬にポタリと滴が跳ね、そこでようやく自分が泣いていることに気づく。涙なんて子どもの頃に騎士の訓練で悔し涙を流して以来だ。俺は眠ってしまったサクラの体をソファーに寝かせると、ジャレドにお礼を言おうと彼のもとに駆け寄った。
「ジャレド氏……だ、大丈夫ですか?」
「うっ……ゲホッゲホ」
ジャレドは口に手を当て床に座りこみ、嘔吐するのを我慢するように何回も咳をしている。顔色も真っ青でさっきよりも脂汗がひどくなっていた。
「ジャレド! しっかりしろ! おい、血を吐いているじゃないか!」
「カハッ……ふぅ……伯父さん、も、もう大丈夫だから……」
「大丈夫なわけないだろう! ブルーノ! 薬を持ってきてくれ!」
立ち上がる気力もないのか、ジャレドはその場にごろりと寝転がり息を整えている。口の端にはたしかに血を吐いた痕があり、いつもヘラヘラと笑っている印象の彼からは程遠い姿だった。