すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「……命を削ったのか?」
ぽつりと司教様がジャレドの汗を拭きながら呟いた。その言葉に殿下も小さくうめき声を出し、俺も胸の奥をグッと押されるような重苦しさを感じる。
それでもジャレドはいつものようにヘラリと笑い、口元の血を拭った。
「……そりゃそうだよ。やり方は瘴気の浄化と一緒だもんね。一度自分の体に呪いを入れて聖魔力で浄化しているんだからさ。それにしてもサクラは苦しかっただろうな。まるで煮えたぎった油を飲まされているかと思ったよ」
ジャレドはゆっくりと起き上がり、ゴクリと薬を飲んだ。すぐに効果があったのか少し顔色も良くなってきている。ふうっと大きなため息を吐くと、俺の顔をチラリと見た。
「かわいそうに。浄化の時だって高熱を出しながら、この国のために頑張ったのにね。理不尽に元いた世界に戻され、また召喚。そのうえかつての仲間に処刑されるところだったとは……」
「そ、それは……!」
反論するつもりはない。本当にジャレドの言うとおりだ。むしろ彼は一度目の彼女を知っているからこそ、二度目のこの状況が悔しいのだろう。呪いの痛みを経験したことでよりいっそう彼の言葉に重みを感じ、誰一人として口を開くことができず黙っていると、ジャレドのクスっと笑う声が部屋に響いた。