すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「……あの時だってそんな誓いはしなかったよ?」
立ち上がり彼女の頬にふれると、ポロリと涙が零れ落ちる。赤く上気した顔に潤んだ瞳で見つめられ、俺は自然と彼女を抱き寄せていた。
「それなら過去の俺は愚か者だな。まだ思い出せないが、きっと昔の俺もサクラに恋していたはずだ。だからずっと君を守ると誓わせてくれ。それにもう誓ってしまったからな。取り消しはできないぞ」
彼女の乱れた髪を一房耳にかけながら笑うと、サクラは少し驚いた顔をして呟いた。
「あの時と一緒……その笑い方好き。えへへ」
少しはしゃいだ声とともに、サクラが俺の背中にぎゅっとしがみついた。俺はゆっくりと彼女の背中に回した手から魔力を流し込む。小さく「ん……」と反応したサクラにこっちまで顔が赤くなってしまったが、お互いの顔が見れなくてちょうどよかった。
「必ず君のことを思い出してみせる」
「……うん。私もカイルに思い出してもらいたい」
どこからか鳥のさえずりが聞こえ、心地よい風がサクラの細い髪をサラサラと揺らしている。俺はさらに力をこめて彼女を抱きしめ、ゆっくりと魔力を流し込んでいた。
(ジャレド氏には本当に感謝しなくては……彼のおかげでサクラとの絆が深まった気がする)
しかしそんな彼への感謝の気持ちは、夜明け前に吹き飛ばされた。ドンドンドンと宿泊している部屋の扉を叩かれ、サクラになにかあったのかと驚いて飛び起きると、待っていたのは目をギラギラさせたジャレドだった。