すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(今夜は良い夢が見られそう……)
それでもすぐには眠れそうにない。寝ようと目を閉じるとすぐに昼間のカイルを思い出し、勝手に口元がゆるんでしまうのだ。
(もう! 部屋に帰ってから何回目よ! いいかげん寝なきゃ!)
それでも思い出すのは彼の優しい笑顔に、温かな体温。もういっそ疲れるまで考えてたほうが眠れそうだ。
(まだ魔力が溜まってないから、明日からはカイルとゆっくり過ごせそう……へへ)
そんな幸せな明日を想像して眠りについたけど、次の日の朝ドンドンと乱暴に扉を叩く音で起こされ、すぐに平穏な日々が終わったことを悟った。
(そうだった。ここにはあの人も泊まってたんだ……)
窓の外を見ると、まだ朝日は登ったばかり。どうりで眠いと思った。私が目を擦りながらガチャリと扉を開けると、やはりそこには予想どおりの人物が立っていた。
「サクラ! 解呪の魔法陣ができたぞ! さあ! 旅に出よう!」
ボサボサの髪に昨日と同じ服。そして手には魔法陣が描かれている羊皮紙を持って満面の笑みで立つのは、やはり師匠のジャレドだった。