すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「さあ〜……しゅっぱつしようか〜」
「いや師匠、さっきのやる気はどこにいったんです?」
目の前にいるのは、だらけきったいつもの師匠だ。眠そうにうつらうつらと船を漕いで、しまいには馬車に頭をぶつけそうになったのでカイルがあわてて支えていた。
「ジャレド氏は昨日徹夜で魔法陣を作ったらしい。しばらく魔術の出番はないし、彼は寝かせておこう」
「いつもの師匠の仕事ぶりだわ……」
ジャレドは集中すると寝食を忘れ魔術に没頭する。今回もそうだったのだろう。カイルにひょいっと担がれた時にはすでに寝息が聞こえていた。
「ジャレドが言うには前回は教会の馬車だったのだろう? しかし今回はなるべく目立たないように移動したいんだ。サクラには申し訳ないが、以前と違って荷馬車で行こうと思う」
「私は大丈夫だよ! みんなと一緒に乗れるならなんでも平気!」
ありがたいことにこの世界の道はけっこう綺麗に舗装されている。そのうえ案内された馬車をのぞいてみると、床には厚手の絨毯にフカフカのクッション。それに師匠が横になっても十分な広さがあって、なかなか快適に改造してあった。
「うわあ……素敵! 乗り心地良さそう!」
「「頑張りました!」」
ブルーノさんとアメリさんは顔を見合わせ、満足そうに笑っている。思わず仲良さそうな二人にニヤニヤしていると、荷物を運び終わったカイルが地図を持ってやってきた。