すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「ふ~ん。だいぶ魔力が戻っていたようですね。さすが聖女様といったところでしょうか。……それならば最後に、聖女らしく結界の修復をしてください」
そう言うとエリックは魔法陣に手を当て、自分の魔力を流し始めた。ブンと音がして魔法陣が青く光り、いっそう強く私の魔力を吸い始める。
「くっ……」
「ここはね、忘却の魔術をかけた場所なんですよ。ほら、あそこにあなたが修復するはずだった結界の穴があるでしょう? まったく同じ場所からなら魔術の痕跡が残っていますから、あなたが浄化しなくても結界とつながるでしょう」
(結界とつながる……? エリックはなにがしたいの?)
彼が指差した遠くの空には、たしかに結界の穴が開いている。そこから少しずつ黒い瘴気が入っては、地上にある町に降り注いでいた。
(ということは、あの町はケセラよね。カイルたちとそんなに離れてないんだわ!)
無謀だとわかっていても、必死になって体をよじらせてしまう。するとその姿を見た王女がニヤリと笑って口を開いた。
「大人しくなさい。そうすればあなたを殺したりはしないわ。そのかわり、もう一度忘却の魔術をかけてあげる」
「今度はジャレドもこの国にいますから、あなたを覚えていてくれる人はいませんよ」
そう言うと二人は堪えきれないといった様子で大笑いし始めた。