すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(もう一度、忘却の魔術をかける……? じゃあ、せっかく私が聖女だって知ってもらえたのに、それがなかったことになっちゃうの? そんなの絶対に嫌!)
「んんん~!」
「無駄だ。町からはこの丘は見えない。たとえ魔術が発動したことにジャレドが気づいても、その時にはすでに君のことを忘れている」
「愛し合ってるカイルも来れないわね。残念ね」
二人は私の気持ちを煽ることが目的のように、下卑た笑いを浮かべている。
(嫌だ! 絶対にカイルに思い出してもらうんだから!)
それなのに目眩がひどくて起き上がることすらできない。それでも私が二人を睨みつけ動こうとする様子に、エリックが眉をひそめ始めた。
「成人した騎士でもこの魔術で魔力を抜かれたら気絶するものですが、あなたは元気ですね……。ああ、そうでした。あなたはもともと魔力がなくても生きていける世界の人だ。二度目に現れた時も魔力がなくても元気でしたね」
(そんな危険なものを私に。なんて人だ。それにもう魔力はほとんどない。全部吸い取られちゃった……)