すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「さあ、忘却の魔術が発動しますよ」
エリックの言葉どおり私の魔力をたっぷり吸った魔法陣から、虹色の光の柱が立った。くるくると螺旋を描くように空に向かっていき、結界に溶け込んでいっている。
「これでカイルは、あなたのことを忘れたわ。もう助けになんて来ないのよ」
「今頃、なぜ自分たちがケセラの町にいるのか不思議に思っていることでしょう」
私の魔力をすべて吸い取ったのか、魔法陣の光が消えた。ようやく体を動かせるようになり仰向けに転がると、結界の穴はなくなっていた。
(また忘却の魔術がかかったの? 今は師匠もこの国にいる。私を覚えている人はもう誰もいないの?)
悔しくて泣いてしまいたいけど、二人の前では絶対に涙を見せたくない。それに魔力がなくなったって、私のことを忘れてしまったって、教会に行けばなんとかなるかもしれない。
(何度やり直しても、またカイルに会いたい……!)
しかしそんな一縷の望みも、エリックの言葉でぷつりと絶たれてしまった。