すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


「そうだった! ありがとう、すぐ行くね! じゃあカイルまたね。師匠もブルーノさんもまた夕食で!」


 俺の腕からスルリと抜け出すと、サクラの興味はアメリに移ってしまった。二人は「素敵なドレスがいっぱいですよ」「楽しみ!」と、きゃあきゃあ騒いで楽しそうだ。残念だが今回は俺よりも、親友との楽しい時間が彼女には良かったみたいだな。


 しかし反対に暗い顔をしているのがブルーノだった。お茶の準備をしながらため息を吐き、なにか言いたそうにジャレドを見ている。もちろんその視線に彼が気づかないわけがない。


「どうしたんだい、ブルーノ。この結末は不満かい?」


 ほんの少しからかいの色が混じったジャレドの言葉に、ブルーノはさらに眉間にシワを寄せる。


「だってそうでしょう? 自分たちがした行いを覚えておらず、ただ幽閉されて終わりだなんて。エリックはまだしも、王族であれば良い食事や衣服を与えられます。サクラ様にした仕打ちを考えると、私はとても許せないのです!」


 ブルーノはいつも穏やかで優しい青年だ。こんな声を荒げ、怒る姿を初めて見た。ジャレドはそんな彼を見て笑っているが、その笑顔の奥には薄暗いなにかが感じられた。

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