すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「魔力がない?」
「そんなこと、ありえるのか?」
「それなら、この娘はどうやって生活していたんだ? 水を出すのにも魔力は必要だろう」
「まさか、他国からの侵入者か?」
「それでも隣国でも魔力なしは聞きませんよ」
口々に周囲の人たちがそう言うなか、カイルの後ろにいたアンジェラ王女が、ニヤリと意味深な笑みを私に向けていた。
「魔力がないなら、なおさら危険だわ。この侵入者を操っている黒幕がいるのでしょう。それを隠すために、わざと話せないフリをしているのではないかしら?」
さっきまでの笑みが消え、今は私を怖がるような態度でアンジェラ王女が話し始めた。その意見にまわりも「たしかにそうかもしれない」「話せないなんてあり得ないからな」と賛成し始める。
(そんな! 黒幕もいないし、話せないのも事実なのに……!)
「拷問をして仲間のことや、王宮で何をするつもりだったのか、吐かせればいいのでは?」
「拷問」という言葉に、バクンと胸が跳ね上がる。その意見を言った人物は、アンジェラ王女の隣に立ち、私をじっと見つめていた。恐ろしい言葉を言ったのに、その顔にはなんの表情もなく、まるで人形のようだ。