すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
「あら、気づいてなかったの? カイルもかわいそうにね。あなたのお守りをさせられて。愛するふりをして聖女様のご機嫌を取ってあげないといけなかったのだもの」
(愛するふり? 私のご機嫌を取るために、私に好きだと言ったといいたいの? 何も知らないくせに!)
あまりに身勝手な言動に、思わず握っていた鉄格子に力が入る。静まり返った牢屋にカタカタと鉄の棒が揺れる音が響き、私の動揺が伝わっていく。しかしその反応は、王女にとってかえって楽しいものらしく、今度はお腹を抱えて笑い始めた。
「あははは! 無様ねえ。私あなたが大嫌いだったわ! たかが瘴気を消したくらいで皆に大切にされて、いい気になってたでしょう?」
(たかが? たかが瘴気って言った? あの瘴気でどれだけの国民が苦しんでたと思うの? 結界で守られた王宮で、お茶ばかりしているこの人に、彼らの苦しさなんてわからないんだわ!)
私がこの国に召喚された時、大勢の人たちが瘴気のせいで、病気になっていた。その場所もさまざまで、足が動かなくなる人もいれば、目が見えなくなるひともいた。大人から子どもまで、例外なく襲う瘴気の毒に、みんな怯えて暮らしていたのだ。