すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
そんな呆然と立ち尽くす私に、カイルは私にしか聞こえない声で囁く。
「……悪く思わないでくれ」
そんな馬鹿な。私は一度目の召喚で、聖女としてこの国の瘴気を浄化したじゃないか。あなたと共にいろんな土地に行き、慣れない浄化で熱を出すこともあった。
それなのに二度目の召喚では、みんな私のことを忘れ、聖女の力も声すらも奪われ、愛するあなたに崖から突き落とされそうになっている。
(でもあなたを悪く思えない。だってこれは、私が呪われてしまったからなんだもの……)
私はそっと瞼を閉じて、カイルとの楽しかった日々を思い出す。どうせ死ぬなら幸せな記憶の中で死にたいわ。
後ろから、ジャリッと地面を踏みしめる音がした。そろそろか。
(昨日、召喚の魔法陣が見えた時は、あなたに会えると思って、あんなに喜んでたのに。今だったら必死に魔法陣から逃げ出すわね)
そんな叶うはずもない妄想に唇を歪めた時。
ドンと強い力で背中を押され、私の体はそのまま谷底へと落ちていった。