【コミカライズ配信中】すべてを奪われた聖女~二度目の召喚で待っていたのは処刑でした~
そしてようやく、その男がそろそろと顔を上げた。違う。男ではない。女だ。艷やかな髪をひとつにまとめ、少し茶色がかった瞳が俺をじっと見つめている。一瞬見せたその表情は、俺に会えた喜びで溢れかえっていた。
その瞬間、ドクンと胸が跳ねた。
(なんだ? 今の感覚は……、もしかして魔術をかけられた?)
しかし女はまた咳込み、苦しみに顔を歪ませている。
「おまえは何者だ! どこから入ってきた! 答えろ!」
いつもならしない、まるで虚勢を張った怒鳴り声が自分から出ているのがわかった。こんな武器も持っていない、すでに捕縛されている女に何ができるというのだ。
それなのにこの悲しげな瞳に見つめられると、心の奥から妙な声が聞こえてきた。
――その人を傷つけるな
どこから湧いて出てきた考えかわからない。それに目の前の女は侵入者だ。甘い考えで油断をさせる魔術でもかけられたのだろうか。俺はその声を振り払うように、女の首筋に剣を当てた。
「おい! キョロキョロするな! 誰か仲間がいるのか? 答えろ!」
この女に冷たく言えば言うほど、じっとりと背中に汗をかき始める。首に当てている剣も、まるで反発するように力が入らない。無理やりにでも体面を保とうとすると、カタカタと剣が震えだした。そんな時だった。