すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(牢屋の看守に見張りをつけるか……あの王女とエリックの態度、妙に侵入者に冷淡で、執着しているように見える)
妙な違和感からこっそりとケリーに指令を出し、王女たちの動向を探ることにしたのだが、悪い予感というのは当たるものだ。夜中にケリーから報告があり、王女たちが牢屋の侵入者を訪ねたことを知る。
「不思議ですよね。わざわざあんな地下にまで王女が行くなんて……」
「ああ。それで何を話していたか、わかったか?」
「いいえ。看守も聞こえなかったそうです。ただ侵入者の女性が泣き叫ぶ声が聞こえたと」
「……そうか。ご苦労。明日には殿下がお帰りになる。何かするのなら、朝には動くだろう。注意しておくように」
「は!」
ケリーから聞く報告が、みぞおちの辺りをズンと重くさせている。そのままベッドにゴロリと横になるが、頭は怒りの感情でいっぱいだ。
――彼女を傷つける者は、許さない
今はもうこの馬鹿げた考えを、振り払う余裕すらない。むしろこの声に同調し始めている。魔術をかけられていないのに、なぜこんな感情を持つのかまったくわからないが、今はただ牢屋にいる彼女が心配でならなかった。
(彼女は、今も薄暗く寒い牢屋で、一人泣いているのだろうか……)