すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
ゆっくりと一歩、前に踏み出した。その時だった。ガラガラと王女を乗せた馬車が動き出す音がした。ケリーだ。作戦どおり部下のケリーが王女の視線をそらすため、馬を動かしてくれた。
(今だ!)
俺は彼女に体当たりするように、後ろからぎゅっと抱きしめ、崖から飛び降りた。
「目を閉じてくれ!」
飛び降りてすぐに転移の魔術を開始する。無事、魔術は発動し、俺たちの体はまぶしい光に包まれた。
「うっ!」
ドスンとどこかの地面に着地し、俺は彼女を抱きしめたまま転がった。あわてて体を起こし彼女を抱えると、柔らかそうな草の上に座らせる。
「大丈夫か? 怪我はないだろうか?」
「…………」
目の前の彼女は俺の顔を見ても、キョトンとした顔をしている。何が起こったのかわからないのだろう。キョロキョロと辺りを見回すと、今度は俺の顔を手のひらでペチペチと叩いていた。
「本物だ。君は死んでないぞ」
「…………?」
それでも首をかしげ、なにか考え込んでいる。しばらくしてハッと思い出したように自分の頬をつねると、ようやくこれが夢じゃないとわかったようだ。顔を上げ、再び俺の顔を確認すると、瞳を大きく見開き口をパクパクさせている。