すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


 私があからさまに喜んだ顔をしたからか、カイルは「教会に縁があるのか?」と聞いてきた。私はもちろん勢いよくうなずいた。


「……そうか。信心深いのだな。それなら教会の信者として、名前が残されているかもしれない。君のことを覚えている人がいればいいのだが」


(う〜ん。でも皆忘れてるみたいだから望みは薄いよね。それとも教会パワーで覚えてくれてるとか?)


「教会なら事情を話せば、君を匿ってくれるだろう。……そういえば、君の名前はなんと言うんだ? 文字は書けるか?」


 残念ながら、私の会話は自動翻訳で文字は読めないし書けない。私は首を横に振って否定した。疑われるかもしれないけど、本当のことを言うしかない。


「……そうか。読むこともできないのか?」


 コクリとうなずくと、カイルは険しい顔をし始めた。この期に及んで協力的じゃないと思うだろうな。そもそも私はこの国で王宮に無断で侵入した犯罪者だ。今の優しい態度のほうがおかしい。


「そうか。わかった。それなら仮の名前をつけていいだろうか?」


 意外にもカイルは優しい態度を変えなかった。それどころか私に名前をつけてくれるという。
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