すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(名前ならあれがいいな……)
私は落ちていた小枝を拾うと、地面に花の絵を描き始めた。それはこのオズマンド国でも暖かい季節に咲く、桜によく似た花。カイルと一緒に眺めたことがある、思い出の花だ。
「ん? この絵は花か? ああ、この名前にしてほしいということか?」
カイルはすぐに理解してくれ、私を見てニッコリと笑っている。そして私に手を差し出し、立ち上がらせた。
「じゃあ、今日から君の名前は、サイラだな。良い名前だ」
――サクラの名前はサイラと似ているんだな。オズマンドふうの名前だ。俺たちの子どもが女の子なら、サイラにするのもいいな!
プロポーズしてくれたあの日、満開のサイラの下で、カイルはそう言って抱きしめてくれた。
(もう一度、彼を取り戻したい……どうすればできるの?)
私は彼のまぶしい笑顔を見つめながら、絶望の中に一縷いちるの光を探っていた。