鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 別に一人で階段を上がらなくても、二人で話しながら上がっていけば良いと思うのに。いつものキースであれば、きっとそうしてくれたはずだ。

 何か自分の知らない急ぎのことがあったのかもしれないと自分を無理矢理納得させると、オデットは階段を上がり風呂場で丁寧に身体を洗ってから彼の部屋の扉を叩いた。

「どうぞ」

 キースの応える声が聞こえたので、オデットは戸惑いつつも扉をゆっくりと開いた。

「あのっ……失礼します……キース? どうかしました?」

 やっぱりキースは何かおかしい気がすると、オデットは思った。いつもの彼なら、扉を開いて出てきてくれるはずなのに。

「……本当に、来たか」

 キースはベッドに座って、腕を後ろについたままで苦笑した。

「来ますよ。私がこれをキースに頼んだのを、忘れたんですか?」

 いつも優しい彼に蔑ろにされているような気がして少し不満げな表情になったオデットに、キースは苦笑して手招きをした。

「おいで」

 その言葉に誘われるように歩き出すとベッドに腰掛けて、両手を差し出した彼の元へとオデットは辿り着いた。

「……何か、ありました?」

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