鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 間近でそう言ったオデットに、彼はまた苦笑した。

「それは、朝で良くないか? 初めてだったし、疲れただろう」

「ダメです。痛いのに……ごめんなさい」

 そして、オデットは集中して月魔法を使った。薄闇を、切り裂くような眩い光。

(ああ……まだ)

「なくならなかったです」

 背中の傷はもう塞がっているはずだ。傷の痛みがなくなった彼自身が一番この事態を理解しているだろうが、キースは耳の近くで囁いた。

「……そうだな。別に、問題ない。俺が君を守れば、問題ないだろう」

 当てが外れたと項垂れるオデットを慰めるように、キースは彼女の髪を撫でた。

「……キース。この力が、もうなくならないのなら。私を使えば……なんでも。世界のなんでも、手に入れることが出来ると思います。だから……」

 貴方の役に立ちたいと続けようとしたオデットの唇を、キースは人差し指で押してそれを制した。

「俺は、そんなものは要らない。望んでいたのは、ひとつだけだ。もう、それも今は手にしている」

「それって……何ですか?」

 キースは沢山の物を手にしている。それはなんだろうと首を傾げたオデットに、キースは噛み締めるようにしてゆっくりと言った。

「俺は、お前の心だけが欲しい。振り向いてくれたら、もう他に何も要らない」

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