鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 生まれた時から持つ月の女神の加護により稀有な能力を持ち、すべての自由を奪われまるで意志のない人形のように扱われていたと聞いた。

 全ての万病や怪我がたちどこちに治療出来てしまう能力は、金の成る木だ。誰もが欲しがり、手に入れたら決して手放さないだろう。

 だが、彼女自身は、そう扱われることから逃げたがっていた。だからあの時、逃げていたのだ。

 どんなに武力を持っている人間だとしても、一目見るだけで怯んでしまうような巨大な鉄巨人から全力で走っていた。

「ありがとう。頂くよ」

 そう言って長い髪を撫でれば、彼女は本当に嬉しそうに頷いた。

 無垢で、純粋なのだ。ただ、眩しかった。人としての挫折を知らぬ、真っ直ぐな視線も。

 それも、彼女のこれまでを考えれば、無理はない事かもしれない。彼女には、人間関係で頭を悩ませることなどなかっただろう。

 欲に塗れたドス黒い心を持っている権力者から、良いように扱われていただけで。

< 116 / 272 >

この作品をシェア

pagetop